2011年09月

2011年09月29日

ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継5)

ミニ小説

〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継5


1.物件との出会い

2.現地検分

3.クライアント訪問(1)
4.クライアント訪問(2)


5.テナント調査


約束の月曜日がやってきた。


1
階の和風定食屋は和風割烹という雰囲気を醸し出している。店先には「今日のおすすめ」がディスプレイされている。一品あたり500円〜600円程度の魚料理が中心だ。


「まずは、ここから行ってみましょうか」


という小林さんの言葉に引きずられるように、僕は店内に入った。


「いらっしゃい!」


威勢のいい板前さんの声。店員らしき人はこの板前さんしかいない。


客席は20席ほどだろうか。夕方6時で半分程度の入りだ。


とりあえず生ビールと枝豆、刺身の盛り合わせを注文する。


7
時を過ぎるころになると8割程度、席が埋まった感じになった。大抵のお客さんは店の板前さんと言葉を交わしている。帰宅途中の地元サラリーマンがまっすぐ家に帰りたくないのか、帰れない理由でもあるのか、一人でフラリと立ち寄っている感じだが、気が付くとお客同士が普通に会話している。


「きっと、みんな地元の顔見知りなんでしょうね。」


「そうですね。ところで、田中さんならこの店の営業状態をどう分析しますか?」


小林さんは唐突に聞く。


「そうですねえ。直観ですけど、夜の一人あたり単価は3千円程度、昼は600円くらいで、それぞれ一日平均で最低でも座席の6割程度、12名は来店しそうな感じなんで、一日の売上は最低でも4万円強はありそうですね。ひと月20日の営業で85万円強の売上。飲食業の粗利率を6割とみると、粗利益は約50万円。家賃が14万円だから、他の経費を差し引いても、板前さんの給料は何とか出る感じですかね。かなり保守的にみてこの程度ですから、なんとかやっては行けるレベルじゃないかなと思います。回転率を加味してませんから、実際は結構いい感じじゃないですか。」


「私もそう思いますよ。じゃ、もう一杯ビールを頂いたら、次はワインにしましょう。」


そう言って追加のビールを飲み干して、お隣のイタ飯屋さんへ。


やはり入り口には、黒板にカラフルなチョークでメニューが書かれている。


ここは確か、若い地元出身の夫婦でやっている。


ドアを開けると、ドアについたカウベルが「カランカラン」と店内に響く。


木目調の薄暗い店内には、さっきの和風居酒屋に来ている客より若い感じのサラリーマンや女性達が食事をしている。


とりあえず、グラスワインとチーズの盛り合わせを注文し、メニューをまた眺める。


「小林さん、ここも、客単価は隣と一緒くらいですね。」


「そうみたいですね。席数も同じくらいだし、席の埋まり具合も同じ感じですね。来ているお客さんは、ほぼ地元の方でしょうね。」


確かに、離れたテーブル同士でも、お互い知っている感じで話をしている人もいる。


ワインも3杯目になり、かれこれ8時を過ぎようとしたころ、小林さんは、このイタ飯屋さんも問題ないと判断したようで、


「そろそろスナックの開店時間ですよ。次行ってみましょう。」と言って、会計を済ます。


隣の店の入り口には、『メンバーズクラブ・マリリン』と書かれた黒地に淡いブルーの看板が出ている。


「メンバーじゃないけど、大丈夫なんですかね。」


「大丈夫ですよ。メンバーズクラブっていうのは、店の店主が理不尽なお客を追い返すための口上ですから。僕らはジェントルマンだから追い返されたりしませんよ。」


店内はよくあるスナックと同様で、カウンター席が8席ほどあるだけだ。そして店内は僕らだけだ。


40
前後だろうか、ロングヘアで細身の奇麗なママが僕らを出迎える。恐らく、この人が賃借人さんだ。


「僕ら、この店初めてなんだけど、一人いくらくらいで飲めるの?」


「うちは一人3000円よ。ボトル代は別でね。ボトルは3000円からあるわよ。」


「じゃ、3000円の焼酎ボトルをちょうだい。水割りセットでね。」と小林さん。


ママは、乾きもののチャームを僕らに出しつつ、焼酎の水割りを作ってくれた。もちろん、二人分ではない。彼女の分もだ。「私も頂きますっ!」と言いながら、三人で乾杯する。僕にはちょっと濃い水割りのような気がした。


乾きものの柿の種をつまみながら、僕は頭の中で考えた。


「柿の種って、この分量なら原価でせいぜい一人50円くらい、焼酎もディスカウントストアで買えば800円くらいで買える品物だよなあ。それで平均客単価が4千円ちょとだったらかなりの粗利率だなあ・・・」


そんなことを一人考えていると、


「今日はぜんぜんお客さんいないね。いつもこんななの?」


小林さんは、ママに話しかける。


「そうねえ。9時過ぎれば、お隣から来るわよ。今日は満席にはならないと思うけどね。ちょっとうるさくなるけど我慢してね。」


「うるさくなる?」と僕。


「カラオケよ。ここに歌いに来るのよ。うちはおじさん達しかこないでしょ。あの人たちはね、カラオケボックスには行かないのよ。ちょっと、あなたも一曲どう?」


進められるがままに、僕はついついマイクを握ってしまった。


気持ちよく歌い終わったところで、小林さんが一言つぶやく。


「一曲200円ですよ。」


「えーっ!お金とるの?」


「ちゃんと書いてありますよ。こういう店は、カラオケの収益が結構あるんです。カラオケ機器のリース代金にもよりますけどね。でも、この店の機器はそんなに高くないと思いますよ。」


「カラオケボックスのつもりで歌っちゃったら、カラオケ代だけで軽く1000円超えちゃいますね。」


「じゃ、一曲だけにしておいてください。」


「わかりました。。。」


そうこうしているうちに、さっきの和風居酒屋にいたと思われる客が5人入ってきた。



そこまでは覚えているが、そこから先の記憶がないまま、僕は翌朝を迎えた。


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2011年09月26日

ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継4)

ミニ小説

〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継4


1.物件との出会い

2.現地検分

3.クライアント訪問(1)



4.クライアント訪問(2)

僕は、物件資料を広げ、簡単に物件の概要を説明した。


小林さんは、ざっと資料を眺めながら、


「これはいい物件ですね。建物のコンディションと修繕費用次第ですが、5,000万円なら買ってもいいですよ。」


と言う。そして、さらに続けた。


「この物件が、旧耐震基準(※)であることについてはあまり気にしませんが、見える範囲で結構なので、建物図面通りに建てられているかという点は確認してほしいですね。」


(※)昭和5661日より前の建築基準法で建てられた建物。現在の基準と比べると耐震性が劣る。


「分かりました。私も建物のコンディションを把握してから、投資可否を決めたほうがよいと思っていました。それで、ビルの売買で利用される『エンジニアリングレポート』の作成を設計事務所に依頼してみてはどうかと思っているんですが、どうでしょうか。」


「そこまで精緻なものは必要ないですよ。木造の建築物なら、ホームインスペクションで十分でしょう。」


ホームインスペクションという聞き慣れない言葉。なんだろうと思い、僕は小林さんに質問する。


「ホームインスペクションですか。。。簡易な建物調査か何かですか、それって。」


「エンジニアレポートのうちの劣化診断を抜き出したようなものですよ。眼で見える範囲を調査し、建物のコンディションを明らかにするものですよ。だから、建築基準法や消防法等に違反していない建物かどうかという詳細チェックやPML値といった地震の際に受ける損失額を予想したもの、あるいは土壌調査や地歴調査などは含まれませんね。」


「なるほど・・・」


「エンジニアリングレポートに比べたら、費用はたいしたことありませんしね。田倉事務所っていうところが有名ですよ。私も一度、利用したことがあります。」


と小林さんは言うと、僕に田倉事務所の名刺のコピーを手渡した。


「じゃあ、早速、田倉事務所に問い合わせてみます。ホームインスペクションの結果を見てから購入をオファーするかどうかを考えましょう。」



一方、僕が気になっていたのは、1階のテナントが居酒屋やスナックである点と、2階が「神田川」的な部屋であることだ。普通の投資家なら嫌がるはずだ。なぜ、小林さんは、開口一番にこの物件は言い物件だと言ったのだろう。


「ところで、1階テナントは呑み屋さん、しかも2階は今どき風呂もない部屋ですよ。勝算はあるんですか?」


1階テナントは、地元の方が長期間借りていて延滞歴がないんですよね。ということは、地元の固定客がある程度存在すると想定できますし、月額7万円程度の賃料なら余程流行らない店でない限り、支払い能力を疑う必要はないと思うんですよ。まあ、実際に呑みに行けば経営状態や顧客層が判りますよ。」


なるほど。確かにそうだ、と感心していると、小林さんは続ける。


「仮に、商売がうまくいかずに退去されてしまっても、駅からこれだけ近ければ、直ぐに代わりのテナントは見つかるでしょうし、賃料相場も現在の水準程度だと思いますよ。少なくとも、1階テナントがきちんと賃料を支払ってくれていれば、まずまずの収益性ですし、土地の価値は路線価で見ても9000万円でしょう。建物は古いとはいえ、賃料が発生している以上、その価値がゼロということはないですから、少なくとも土地建物合わせて9000万円を超える価値があると考えていいですよね。ですから、5000万円で投資するというのは悪くないと思いますよ。」


「なるほどですね。でも、2階の風呂なしの部屋についてはどうお考えですか?」


「この地域は、昔から風呂なしの部屋でも需要はあるんですよ。今は昔に比べると少なくなったかもしれませんがね。ただ、3万円を切るくらいで募集すれば、入居したいという人は必ず現れますよ。だとすれば賃料総額が上がる可能性は十分にあると思うんですよ。」


僕は、先日、地元の不動産屋から聞いた話に加えて、賃貸取引事例をこのタイミングで小林さんに報告した。


「そうでしょ。ここはそういう地域なんですよ。思った通りですね。」


小林さんは、メガネの奥をきらりと光らせながら、続ける。


「それからね、この手の店舗の場合、エアコンや給湯器、厨房など、すべてテナントの持込み資産だから、オーナーが修繕したりする必要がないんですよ。壊れたら全てテナントの負担になります。オーナーが負担するのは、建物躯体と建物の外側にある給排水管とかガス管くらいなものだから、ほとんど手間がかかることはないんです。2階の部屋も、エアコンや風呂などがあるわけではないので、普通の賃貸住宅に比べ維持管理の手間がかからないんですよ。」


さすが、複数の収益物件に投資している方だけあって、いろいろ知っている。


本来は僕がこういった説明をしなければならないのだろうが、小林さんとはいつもこんな感じでやりとりが進む。


「で、いつにします?」


「えっ?何をいつにするんですか?」
と僕。


「現場に呑みに行く日ですよ。」


小林さんは嬉しそうにそう言った。


小林さんは単に呑みたいだけと違うのか?と思いながら、


「来週か再来週なら、いつでも大丈夫ですよ。お付き合いできます。」
と僕は答える。


「じゃ、再来週の月曜日にしましょうか。給料日のちょっと前ですからそんなにお客さんはいないかもしれませんがね。」


小林さんは、どこまでも投資家だ。客が一番少ないと思われる時期に店舗テナントを覗きにいくなんて。。。


「判りました。じゃ、再来週の月曜日、18時に現地で。」


そう言って、僕は小林さんの事務所を出た。



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2011年09月20日

ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継3)

ミニ小説

〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継3


1.物件との出会い
2.現地検分

3.クライアント訪問(1)


現地で京橋不動産の松田君と分かれて、僕は、近所にある不動産屋を訪ねることにした。


神田川的6畳一間の需要と供給を調べるためだ。


店の窓には「空き部屋あります」と筆で書いた紙が貼ってある。昔ながらの不動産屋さんのようだ。


「こんにちはー。私、仲介業者なんですが、このあたりの賃料相場を教えてもらいたいと思って伺いました。」


如何にも地元でウン十年もの間、不動産の仕事をしてきたというような初老の男が出てくる。


「賃料相場ってったって、物件によるぞ。どんな物件の相場だい?」


「実はそこにある木造アパートを買おうとしているお客さんがいるんですがね、2階が空き部屋なんで、貸せないかなと思って。」


「あー、あそこのアパートね。よく知ってるよ。今は風呂なしだと厳しいよ。まあ、賃料次第だがね。せいぜい3万円ちょいってとこじゃないかい。」


「そもそも借りたいって人はいるんですかね。」


「そこそこいるよ。3万円ちょいで貸してくれるような物件は少ないから、多少きれいにして貸し出せば客は付くだろうな。貸すことになったら、是非うちに知らせておくれ。うちなら苦学生やメジャー漫画家を目指して頑張ってるような子たちが物件を探しに来るから。」


「その時は、是非お願しますよ。」



事務所に戻り、レインズという不動産業者が利用できるデータベースで取引事例を調べてみた。


この地域で風呂なし6畳一間だと、35千円〜4万円程度で成約している事例が数件出てきた。


一方、現時点で風呂なし物件は1件だけしか供給されていない。


初老の不動産屋が言っていたことは、多少のバイアスはかかっているにしても、概ね間違いなさそうだ。



数日後、僕のクライアントのひとりである小林さんを訪ねた。


彼は、複数の収益物件を所有する個人投資家で、かつてこの物件の近所に住んでいたことがあるクライアントだ。
地域性を知っているというのは、不動産投資をする上では重要な要素なのだ。

そして、彼の投資スタンスは、他に競争相手が出てこないような物件を割安で購入するというものだ。つまり、普通の人なら買おうとしない、何がしかの問題がある物件を中心に投資するのだ。競争相手がいなければ、安く買える可能性は高くなる。それが彼の投資判断ポイントの一つなのだ。

ただ、「何がしかの問題」は、得体のしれないリスクではなく、ある程度の調査をすることで、リスクの程度を明確化できるものに限っている。

今回の物件は、木造で築34年。普通は建物の老朽化が激しいと思われるため、手を出そうとする人は少ない。

しかし、建物診断をすれば、リスクの程度はある程度明らかになる。そして、リスクの程度を低減できる手段とそのコストが明確になれば、コストとの見合いで投資が可能になる場合がある。

つまり、建物のコンディションを建物診断によって明確化し、必要な修繕コストを勘案して投資するということになる。


世の中には、こうした「ひと手間」をかけず、見た目だけで物件を選ぶ傾向が強いが、逆に言うと、そういう傾向が強いからこそ、割安で買えるチャンスがあるということなのだ。


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2011年09月14日

ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継2)

ミニ小説
 〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継2


1.物件との出会い


2.現地検分


翌日、松田君に早速現地を案内してもらうことになった。


駅を出て50mほど歩いた商店街にその物件はあった。2階建ての木造建物だ。


1
階では、和風定食屋さんとイタ飯屋さんが営業している。昼時ということもあり、沢山のお客さんが入っているようだ。残りはシャッターが閉まっている。どうもシャッターが閉まっているのは2つのスナックのようだ。


「松田君、確か、1階は6部屋って言ってなかったっけ。」


「はい。6部屋なんですが、この和風定食屋さんとイタ飯屋さんが2部屋ずつ借りているんですよ。」


「そういうことか。で、この2つがそれぞれスナックなんだね。ところで松田君、築34年という割には小奇麗だね。」


「田中さん、よく上を見てくださいよ。小奇麗なのはお店の顔だけですよ。」


松田君に言われて、目を上に向ける。


外壁はモルタルでくすんだ薄茶色。実際は白っぽい外壁だったのだろうが、経年によって汚れが染みついた状態という表現が正しいだろう。


外壁はあちこちひび割れているし、黒くくすんだ染みが外壁だけでなく軒裏にも多数みられる。軒裏の染みは、強い雨が吹き込んできたり、屋根の防水に問題があり、軒に水が回っている可能性がある。

こういう事象が見られる場合、建物の構造躯体となる柱や梁、土台などの木材に、長い時間をかけて少しずつ水分が供給され、木材が腐朽しやすい状態になっている可能性がある。ひどい場合は腐食してしまい、建物の荷重をまともに支えられない危険な状態になる場合もあるのだ。


「空き部屋を見てもいいかな」


1
階部分は店舗として利用しているため、2階部分の空き部屋を見せてもらう。


「汚いので、靴のまま上がっちゃってください」と松田君。


いくらなんでもと思ったが、ドアが開いた瞬間、目に飛び込んできた光景は、ガランとした空間に大量の埃、そして、壁と天井の隅にうごめくクモとその巣。明らかに数年間は人が入居していないような部屋だ。


恐る恐る玄関から一歩入る。

右手にはキッチン。キッチンというより、幼いころ見覚えのある昔の「台所」だ。艶がない鈍い銀色のステンレスでできていて、シンクと蛇口がひとつあるだけだ。シンクの上方には、瞬間湯沸かし器を設置するための立て板が設置されている。もちろん瞬間湯沸かし器は設置されていない。ガスレンジなんて当然ついていない。ガス栓があるだけだ。


玄関左手側の扉を開けるとトイレ。水洗式とは言え、昔ながらの和式だ。床には藍色、青、水色、白の小さなタイルが敷き詰めてある。そして奥には赤茶けた6畳の和室。


天井を見ると、あちこちに水染みが見られる。間違いない。雨漏りだ。


「松田君、これは雨漏りの跡だねえ。前の所有者さんから何か聞いてない?」


「何も聞いてないんです。とにかく、黙って買ってくれという感じだったので。。。」


この状態だと、かなりしっかりした調査をしないとクライアントに投資を勧めることはできないだろう。

もうひとつ気になるのは、2階の部屋に対する需要だ。


「この物件、駅から近いから1階店舗の需要はあると思うけど、2階はどうだろうね。風呂なし、給湯器なし、和式トイレっていうのはニーズあるのかなあ」

「いやあ、ちょっと調べてみないと判らないです。すみません」


「いいよいいよ。自分で調べるから。」


そう言いながら、僕は頭の中で計算してみる。


現在、契約している部屋は月額4万円の賃料だ。保守的に考えれば、空室5室のうち4室を月額3万円の賃料で埋めると考えるのが妥当だろう。

この場合、年間で144万円の収入となる。現状の収入が552万円だから大幅増収だ。


月額3万円の部屋ならば、各部屋とも簡単なクリーニング作業と畳の交換程度でも十分だろう。

いずれにせよ、実際の取引事例や同様の貸部屋の供給状況を調べる必要がある。それから地元業者に対して需要の有無を聞いておく必要もありそうだ。


そして、一番問題なのは建物のコンディションだ。


◇建物に欠陥や不具合はないか

◇仮に問題がある場合、どの程度の修繕コストをかければ問題が解消されるか


という点をしっかり調査する必要がありそうだ。



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2011年09月11日

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1.物件との出会い


ゴールデンウイークが明けて間もないある日のこと。突然、僕の事務所の電話が鳴り響く。


「あ、田中さんですか?ご無沙汰してます。京橋不動産の松田です。お元気ですか? ちょっと相談がありまして・・・。」


彼は、僕が独立起業する前に勤めていた四菱信託銀行時代にお世話になった不動産会社の若手担当者だ。


「おーっ、久しぶりだねえ。今日は暇だから、いつ来てもらっても構わないよ。」


「じゃ、これから伺いますね。」


突然の松田君からの電話。
僕が独立してから、彼とは全く接点を持っていなかったので、何かあったんだろうかと思っているうちに、松田君はやってきた。


松田君は、僕のオフィスでエスプレッソをすすりながら切りだした。


「この物件なんですけど、田中さんのお客様に買ってもらえませんか。昨年、隣地の1,000坪とセットで購入しましてね。1000坪の隣地部分は東鉄不動産に売ることができたんですが、この部分だけ残っちゃって・・・。」


京橋不動産は、古くなった賃貸マンションを購入し、賃借人を退去させた上で購入した土地を更地にし、大手マンションデベロッパーなどに転売する事業をメインにしている不動産会社だ。


松田君が開いた資料には住宅地図が広がっている。この物件は、山手線の西側最大のターミナル駅から私鉄で3〜4駅目の駅前にある好立地物件のようだ。


僕は、松田君の話を聞きながらA4一枚ペラの物件概要書に目を通す。


【物件概要】

◆土地60坪の正形地。三方路。平成23年度路線価約150万円/坪。

◆建物は昭和52年築木造2階建 延床面積60坪。

◆現況年間収入は552万円。

◆売却希望価格 5,500万円


物件概要を眺めながら僕は頭の中で計算してみる。


平成23年度路線価が150万円/坪だから、土地の評価額は少なくとも9,000万円はする。しかも三方道路だ。表面利回り(総収入÷売買金額)は10%を超えている。こんな美味しそうな物件をわざわざ僕のところに持ってくるなんて、普通はあり得ない。


「何か売れないワケでもあるの?」


松田君の目線が僕の目線から大きく逸れる。そして彼は一呼吸置く。


「実は、テナントが半分くらいしか入居してないんです。しかも1階は全て居酒屋とかスナックなんです。2階は6部屋ありますが1室しか入居してません。6畳一間が4つに4畳半一間が2つです。しかも今時お風呂もないんです。だから、前の所有者も敢えて入居募集をしなかったみたいなんです。」


まるで「かぐや姫の『神田川』」の歌詞に出てくるような部屋だと思いながら、僕は聞いてみる。(神田川に出てくるのは三畳一間の下宿だが・・・)


「各部屋の賃料はどれくらいなの」


1階店舗は1部屋月額7万円が6部屋、2階は月額4万円です。」


「各店舗の契約期間はどの程度なの?」


「長いところだと20年近くですね。短いところでも6年は経ってます。10年以上のところが多いですね。延滞歴は全くありませんよ。」


僕はちょっと考えてみた。


普通の不動産屋さんなら、立退き費用を支払ってテナントに退去してもらい、建物を解体して戸建て分譲や小規模マンション開発をしたいと考えるはずだ。


住宅部分は100万も支払えば、確実に退去してもらえると思うが、店舗は全く読めない。しかも契約期間が長いため、地元にある程度根付いているはずだ。とすると営業保証を含めて、いくら請求されるか全く分からない。だから立退きを前提に考えることは難しい。


立退き交渉が簡単にできるのであれば、そもそも京橋不動産がやっているはずだ。とすると、築34年の建物を保有するリスクを負ったまま、現在のテナントに貸し続け、中長期的に所有せざるを得ない。恐らく、建物の築年数からしても、銀行ローンも通りにくい案件だろう。


テナントが居酒屋やスナックばかりの築34年賃貸物件だと、普通の投資家であれば、継続的に賃料が支払われないかもしれないと不安に思うに違いない。かなりハードルの高い案件だろう。


「これだと、買おうとする人はかなり限定されそうだね。余剰資金があって、建物に関する知識やテナント管理ノウハウもあるようなお客さんでないと、興味を示さないかもしれないね。」

資金調達も難しいと思うしね。」


松田君は残念そうに黙りこむ。その沈黙を避けるかのように、僕は言葉を発する。


「でも、この手の不動産に興味を示してくれそうなクライアントがひとりだけいる。」


「本当ですか!わかりました。是非、田中さんのクライアントにお話してみてください。」


「その前に、一度物件をよく見せてもらうよ。エージェントの僕が物件を見ずしてセールスできないからね。」



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