2011年10月
2011年10月24日
ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継8)
ミニ小説
〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継8)
<バックナンバーは末尾にあります>
8.ホームインスペクション実施(1)
京橋不動産の松田君からホームインスペクション実施の了承を得た僕は、直ぐに田倉事務所の丸沢さんに連絡し、ホームインスペクションの依頼をした。
ホームインスペクションの実施日は翌週の水曜日の午後からとなり、担当は古田さんというホームインスペクターらしい。
費用は126,000円で、報告書が届いたら振り込めばよいとのことだった。
思ったより費用はかからないと感じた。
さて、ホームインスペクション実施の日がやってきた。前日は、激しい雨が降っていたが、今日はよく晴れている。
古田さんと名刺交換をしながら、「今日は晴れて良かったですね」と僕は当たり障りのない挨拶をする。
「そうですね。でもね、昨日が雨だったというのが、実はいいんですよ。木造住宅の大敵は、雨漏りなんです。だから、前日が雨だと問題点を発見しやすくていいんですよ。」
古田さんは、そう言いながら、建物の周囲を上から下までじっくり観察している。
「外から見ているだけで、何か解るんですか?」
「建物の基礎や外壁、軒下、屋根など、外観を観察することで、いろいろなサインが出ていないかをチェックするんですよ。基礎や外壁にひび割れがないかとか、軒下に雨漏りの跡がないか、屋根が劣化していないか、というのをまず外観から確認するんです。その上で、室内や床下、小屋裏(屋根裏)を調査して、問題の原因を突き止めるんですよ。ざっと見た感じですけど、基礎は問題なさそうですね。だけど、この物件には壁と軒下に黒っぽい染みが沢山あるでしょう。これはどこからか水分が染み込んできた可能性があるというサインなんですよ。屋根の塗装もかなり劣化しているようですから、雨漏りの可能性大ですね。」
「なんだか、お医者さんの問診みたいですね。」
「ホームインスペクションというのは、まさにかかりつけのお医者さんそのものなんですよ。」
実際、壁のあちこちにひび割れや剥がれた部分が見られる。特に、窓枠の周りは非常に多い。
この建物の外壁にはモルタルが塗られている。モルタルの外壁は、2から3年経過するとひび割れが普通に発生するため、その都度、ひび割れを埋めるなどの修繕を行う必要があるし、5年〜10年に1回くらいは塗装し直ししたほうがよいとされている。しかし、この物件は、まったくこうしたメンテナンスしてこなかったようだ。
モルタルのひび割れや剥がれは、そこから雨水が入り込む原因となる。雨水が入り込んで壁の合板が腐るくらいならなんとでもなるが、構造躯体の柱や梁が濡れ続けるのが一番怖い。だから、こまめに修繕する必要があるのだ。
周囲の観察が終わると、2階の空き部屋へ。
6月というのに、室内は思ったほどジメジメしていない。
30年以上前に建てられた木造住宅は、普通に建築されていれば、ある意味隙間だらけなので、結果的に風通しがよくなり、構造躯体の木が腐朽しづらくなるということもあるらしい。
まずは室内の天井や壁をチェックする。あちこちに水染みがみられる。
「これも雨漏りですかね。」
「間違いないですね。でも、柱には水染みがみられませんから、この部分は問題なさそうですね。この時代の建物は柱がそのまま室内に剥き出しになっているので、構造部材に問題があるかどうか室内に入るとすぐ解るんですよ。」
次に押し入れの上にある点検口を開けて、古田さんと共に小屋裏(屋根裏)へ。
しかし、さすがに小屋裏は蒸せるほどに暑い。染みでる汗を拭いながらライトを照らし、木造構造部分や屋根板などを観察する。予想通り、沢山の雨染みが見られる。
「雨漏りしてたみたいですね。間違いないですよ。」と古田さん。
木造住宅の最大の敵は水分なのだ。木材は水分量が多くなると腐朽しやすくなるし、シロアリ被害にも繋がる。シロアリ被害だけではない。私が実際出会った案件では、雨漏りが継続した結果、通し柱一体が羽蟻の棲家になってしまい、木材がフカフカになってしまっていた事例もあるほどだ。
僕は、恐る恐る雨染みの跡を手で触ってみた。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件、物件などには一切関係ありません。
<バックナンバー>
5.テナント調査
6.ホームインスペクションって何だろう
7.ホームインスペクション拒否!?
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〒104-0031 TEL:03-6228-7937
■本内容については万全を期しておりますが、その内容の全てを保証するもの
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2011年10月11日
ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!木造アパート投資実況中継7
ミニ小説
〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継7)
<バックナンバーは末尾にあります>
7.ホームインスペクション拒否!?
早速、僕は売主である京橋不動産の松田君のところへ報告に行った。
「僕のクライアントがあの物件をかなり気に入ってくれているんだ。購入希望金額は5000万円だけどね。」
「5000万円ですか。それなら上司を説得できると思います!早速話をあげてみますよ。」
松田君は嬉しそうに応える。
「で、ひとつお願いがあるんだよ。」
松田君は僕の言葉に対し、表情を少しこわばらせている。
僕は、小林さんにサインしてもらった「買受申込書」を松田君に見せながら話を進める。買受申込書とは、売主に対して購入希望金額などを記載した購入申込書のようなものだ。
「要は、契約する前にホームインスペクションを実施させてほしいんだ。ホームインスペクションっていうのは、建物診断のことなんだけどね。」
ところが、松田君は顔をやや曇らせながら言う。
「ホームインスペクションで、何か問題が出てしまったらどうなるんでしょう?」
「修繕しなければならない問題がある場合、協議の上で修繕費用を差し引いて買わせてもらうことになるね。」
「例えば、5000万円以上かかるような問題があったら・・・」
「そりゃ、購入は断念せざるを得ないね。」
「そうなりますよね。本音を言うと、売主としては面倒なことはしたくないんです。ホームインスペクションを実施したがために、知りたくもない問題が見つかってしまったら、その問題を隠して、他の買主に売るわけにもいかないでしょう。場合によっては誰にも売れなくなってしまうかもしれませんし・・・。」
確かに、売主からすれば、自分の物件が荒探しされるのはいやだろうし、何か欠陥が見つかった場合は、知らないふりをして売るわけにもいかない。そうであれば、わざわざ診断などせず、本当に知らないまま売ってしまったほうがいいと考えるのは自然だろう。一方、売主としてそんなスタンスでいいのか?という思いも交錯する。そして何よりも、このままでは話が前に進まない。
さて、どうしたものか。。。
「じゃあ、こうしよう。」と僕は切りだした。
「ホームインスペクションはうちが発注するよ。もちろん費用はうちの負担だよ。うちがホームインスペクションの発注者で費用負担者となるわけだから、診断報告書はうちの財産になるよね。」
「そうなりますね。。。」
「そしてその内容について、うちは御社に開示しない。ホームインスペクションの内容を知り得るのは、うちの会社とうちのクライアントだけだ。」
「はい。。。」
松田君はまだピンと来ていない様子だ。僕は続ける。
「もし、うちのクライアントが買わないと判断した場合、うちとクライアントは御社に対して、ホームインスペクションの内容も開示しないし、買わなかった理由についても一切説明しない。つまり、御社はこの物件の問題点については何ら知り得ない立場になる。」
さらに僕は続ける。
「もし、うちのクライアントが買うと判断し、御社もそれに合意した場合には、ホームインスペクションの内容を御社に開示する。開示した内容は、売買契約前の重要事項説明書に容認事項として記載すれば、瑕疵担保責任(※)の問題から御社は解放されるよね。記載された問題点は隠れた瑕疵にならないから、御社もかなりリスクが減る。だからホームインスペクションだけはやらせてくれよ。」
松田君はやっと僕が言わんとすることを理解したようで、瞳をくりくりさせながらこう言った。
「そうか!何か問題があったとしても、田中さんのお客さんが買わないなら、その問題をうちは知ることはない。もし田中さんのお客さんが買ってくれるなら、ホームインスペクションの結果は全て開示されるから、うちの瑕疵担保責任リスクが殆どなくなるってことですね!」
「その通り!」
「それなら大丈夫だと思います。じゃあ、すぐに調査に取り掛かってください。いいお返事を期待してますよ。」
(※)瑕疵担保責任
売買の対象物に隠れた瑕疵(外から容易に見つけることができない欠陥や不具合)がある場合、売主が買主に対して負う責任のことを言います。
隠れた瑕疵があった場合、買主は売主に対して契約解除や損害賠償請求を行うことができますが、買主が契約の際にこうした瑕疵の存在を知らなかった場合で、かつ、知らなかったことについて買主に落ち度がない場合に限ります。一般的には、雨漏りや建物の構造部分の腐蝕、シロアリの害、給排水管からの漏水などがあります。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件、物件などには一切関係ありません。
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2011年10月04日
ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継6)
ミニ小説
〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継6)
6.ホームインスペクションって何だろう
携帯の目ざまし音がけたたましく鳴る。
頭がガンガン響く。
手さぐりで携帯を探し、何とか目ざまし音をとめ、携帯に目をやると小林さんからメールが届いている。
「昨日はお疲れさま。田中さんはあの店で眠ってしまったので、タクシーに押し込んでおきました(笑)。奥様には連絡しておいたので心配しないでください。もう一軒のスナックも行ってきました。問題はないので、ホームインスペクションの依頼をお願します。小林 追伸 田中さん、歌い過ぎです(笑)」
またやってしまった。
とはいえ、小林さんから妻に連絡が行っていなければ、妻にドアチェーンを掛けられ、深夜に自宅から締め出されるという事態になっていたに違いない。その事態を回避できたのは小林さんのお蔭だ。
まずは小林さんに謝罪とお礼のメールを送り、朝食を食べながら妻には平に陳謝する。そして急いで事務所に向かった。
事務所に到着するやいなやパソコンを起動させ、グーグルで「田倉事務所」と検索してみる。
画面には『田倉事務所は不動産版かかりつけのお医者さんです。』と書いてある。
一般の戸建てやマンションだけでなく、今回の物件のような収益物件の調査もやっているようだ。
とりあえず『ホームインスペクションとは』と書いてあるところをクリックしてみる。
ホームインスペクションというのは住宅診断のことで、住宅に精通したホームインスペクターと呼ばれる住宅診断の専門家が、第三者的な立場から住宅のコンディションを調査するというもののようだ。
具体的には、住宅の劣化状況や欠陥の有無、修繕すべき部分や時期、その費用についてアドバイスしてくれるという。
ただし、診断は目で見える範囲を目視でチェックするというもので、病院でいう一次診断のようなものらしい。一次診断で判明した問題については、その段階で処方箋を貰う。
一次診断でははっきりしない問題がある場合は、精密検査という二次診断に進んでいくという感じだ。
だから、『かかりつけのお医者さん』というキャッチコピーになっているのだ。
そして、欧米では住宅取引の70%〜90%の割合でホームインスペクションが実施されているらしい。
確かに、不動産ファンドなどが大型事務所ビルなどを売買する場合、売買契約の前に建物診断を含めた詳細な調査を行うのが日本でも常識になっている。これは、2000年前後に起こった生命保険会社破たんの際、その所有する不動産を購入しにやってきた欧米系ファンドが使っていた手法だ。それが今では完全に日本国内に浸透している。
日本では、一般の中古住宅の売買の際、建物診断をするという習慣はまだないが、恐らく、近い将来、日本でもホームインスペクションを行うことが常識になるのだろうと感じた。
田倉事務所ホームページを斜め読みした上で、僕は田倉事務所の番号にダイヤルしてみる。
「はい、田倉事務所フロントデスク 丸沢です。」
女性オペレーターがさわやかな口調で応対する。
「あのー、私は不動産仲介業者の者なんですが、買主さんのために収益物件のホームインスペクションをお願したいと思いまして。」
「それでしたら、物件の所在、規模など詳細を教えてください。登記簿や建物図面などがあれば事前に拝見させてください。そのほうが調査がスムーズに進みますので。それと、今回は買主さんのために調査されるんですよね。でしたら、売主さんの承諾を取ってくださいね。」
売主の承諾。言われてみれば当たり前だ。
「それから、費用はどの程度ですか?」
「そうですね。この規模ですと15万円程度ですね。」
「判りました。じゃあ、売主の承諾を得たら、直ぐに正式依頼します。」
そう言って僕は電話を切る。
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