2011年12月
2011年12月24日
ミニ小説〜不動産屋の背信 第三話 都合のいいシナリオ
ミニ小説 〜不動産屋の背信 第三話 都合のいいシナリオ
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ミニ小説 〜不動産屋の背信 第三話 都合のいいシナリオ
「もしもし、お電話代わりました。担当の五十嵐と申します。」
「あっ、私、藤川と申します。先日、御社のチラシが投函されてまして、このあたりで一戸建てを探している方がいらっしゃるそうですね。」
「はい、左様でございます。弊社のお客様は桜新町駅が利用できる立地限定で探していらっしゃいます。藤川様はご売却の検討をなさってらっしゃるんですか?」
「まだはっきりと決めたわけじゃないんですけど、場合によっては売ろうかと思ってるんです。その方だったらどの程度で買っていただけるのかしらと思って・・・。」
『求むチラシ』で引っかかってきた顧客というのは、仲介業者にとって「必ず売ってくれる客」ということを意味するオイシイ客だ。しかしまずは、藤川という客の所有不動産の所在地を特定し、競合他社に出し抜かれぬよう可及的速やかに物件情報を押さえなければならない。
「それでしたら、ご住所をお聞かせいただけませんか。直ぐに査定して次の土曜日にお伺いしてご説明させていただきますので。」
「判りました。じゃあ、次の土曜日の午後2時にお願いしますね。」
住宅地図を聞いてみると、藤川という客の家は桜新町から5分程度の閑静な住宅地にあるようだ。しかも南道路に面した形のよい敷地で60坪ほどありそうだ。ざっと見積もっても土地だけで1億2千万円程度はするだろう。
とすると、この客から取れる仲介手数料は、ざっと380万円(1億2千万円×3.15%+63千円)だ。
五十嵐は更に頭の中で計算を続ける。
買主も自分でみつければ、買主からさらに380万円、合計で720万円の仕事だ。
待てよ・・・。土地の規模が60坪もある。一般の個人で1億円を超える不動産を買う人は決して多くない。時間をかけて買主を探すより、建売業者に買わせたほうが効率的だ。
建売業者なら9千万円くらいまで価格は下がるが、五十嵐にとっては美味しい話になる。
なぜなら、建売業者が一般個人に対して販売する際にも仲介に入れるからだ。
つまり、藤川という売主から仲介手数料として約290万円(9千万円×3.15%+63千円)、買主となる建売業者からも同額を受け取る。これでまずは580万円。
次にこの土地を買った建売業者は、土地を二つに割って新築建物を建てて販売することになるだろう。1戸あたり8千万円で販売するとすれば、売主となる建売業者からは仲介手数料として約520万円((8千万円×3.15%+63千円)×2戸)と、最終的な買主からも同額を更に獲得できる。この取引で1040万円。
つまり最終的には合計で1620万円の仲介手数料になる。まさに「一粒で二度オイシイ案件」だ。
藤川という客は絶対に逃がしてはならない客だと確信しながら、如何にしてこのシナリオに藤川という客を乗せていくか思案する五十嵐だった。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件、物件などには一切関係ありません。
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2011年12月12日
ミニ小説〜不動産屋の背信 第二話 西京不動産販売 五十嵐一樹
ミニ小説 〜不動産屋の背信
第二話 西京不動産販売 五十嵐一樹
西京不動産販売は、財閥系西京グループの雄である西京不動産の子会社である。
主に、一般中古住宅の仲介や戸建分譲素地、収益アパートなどの売買仲介を手掛けている会社である。簡単に言えば、売りたい人と買いたい人の仲人業だ。
五十嵐一樹は明月大学卒業後、この就職氷河期に何とか財閥系列の不動産会社に就職することができた入社5年目社員だ。いわば、仕事にも随分慣れてきた中堅社員というところである。
「五十嵐。今年もだめだったらしいな。」
こう声をかけたのは上司の坪川だった。
「何すか?課長。」
「宅建だよ。お前、また不合格だったんだろう。」
「ああ。宅地建物取引主任者試験ですか。しかたないですよ。殆ど勉強してないし。だけど、宅建なんて関係ないでしょ。資格があっても稼げなきゃ意味ないですしね。無駄な資格取得のために時間を割くくらいなら、『求むチラシ』を配ってたほうがいいですよ。」
「まあ、そうだな。資格オタクより稼ぐやつのほうが重宝がられるしな。ただな、ないよりはあったほうがいいぞ。今度は頑張れ。」
五十嵐は、軽くいなしつつ頷いたものの、頭の中では、資格の事など眼中になかった。
この業界では、資格を取ったからといって給料が上がるわけではない。稼いだ仲介手数料に応じてボーナスや給料の多寡が決まる仕組みだ。
だからこそ、常に新しい客、特に売主を獲得するために、『求むチラシ』を担当地域に配りまくる。これが一番効率的なのだ。
『求むチラシ』というのは、「この地域に不動産を探している人がいますので、売却を検討しているなら当社に声を掛けてください」という類のチラシだ。
ちなみに、この手のチラシは、本当に客がいるとは限らない。
ただ、西京グループであれば大手として大々的にテレビCMなども行っていることから、ちょっとでも売却検討している人ならば、大抵の場合、チラシを信用して電話を掛けてくる。
こういう売主を手っ取り早く獲得する最もシンプルな手段が『求むチラシ』だ。
「五十嵐さ〜ん。お客様からお電話です。」
事務の女の子から声がかかる。受話器から聞こえてきたのは若い女性の声だ。
「あのー、私、藤川と申しますが、先日、御社のチラシが入ってまして。。。」
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件、物件などには一切関係ありません。
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2011年12月04日
ミニ小説〜不動産屋の背信 第一話 藤川姉妹
ミニ小説 〜不動産屋の背信 第一話 藤川姉妹
「もう一年かあ。お父さんが死んでから・・・。」
藤川菜々は姉の美樹にしみじみと語りかけた。
菜々と美樹は、かつては家族四人で過ごしていた家に二人で住んでいる。
その家は、菜々が高校二年生のときに父隆弘が新築した家だったが、母の正子は菜々が大学三年のときに他界、父隆弘も昨年他界した。
世田谷の桜新町駅から程近い閑静な住宅地に建つその家は、延床面積50坪ほどの2階建で、二人にとっては広すぎるものだった。
「菜々。私、思うんだけどね、そろそろ私たち、別々に生活したほうがいいと思うの。前にも相談したけど、この家を売ったほうがいいんじゃないかと思ってるのよ。」
「そうだね。一周忌も終わったことだし、お姉ちゃんもそろそろ結婚だもんね。ちょっと寂しいけど、売ったほうが私たちのためになるかもね。」
姉の美樹は東都信託銀行事務管理部に勤めている。同じ信託銀行の先輩と近いうちに結婚することについては、亡き父隆弘も公認のことだった。
「そういえば、最近、よく不動産屋さんのチラシがポストに入ってくるんだけど・・・」
美樹は菜々に一枚のチラシを見せた。
『この地域で中古一戸建てを探しているお客様がいます。急いでいますので相場より高く買います!』
と大きな目立つ文字で書いてある。
「相場より高く買ってくれるんだ。西京不動産販売三軒茶屋支店っていうことは、私の会社の系列だよ。お姉ちゃん。」
菜々は一部上場の西京商事のLNGチームに所属している。西京不動産販売は旧財閥の西京グループのひとつである西京不動産の子会社だ。
「よく知らない不動産屋さんだとちょっと怖いけど、西京グループなら大手だし安心だと思うわ。ちょっと電話して話を聞いてみない。」
そういって、美樹は菜々に電話をするよう促した。
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