2011年09月14日
ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継2)
ミニ小説
〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継2)
2.現地検分
翌日、松田君に早速現地を案内してもらうことになった。
駅を出て50mほど歩いた商店街にその物件はあった。2階建ての木造建物だ。
1階では、和風定食屋さんとイタ飯屋さんが営業している。昼時ということもあり、沢山のお客さんが入っているようだ。残りはシャッターが閉まっている。どうもシャッターが閉まっているのは2つのスナックのようだ。
「松田君、確か、1階は6部屋って言ってなかったっけ。」
「はい。6部屋なんですが、この和風定食屋さんとイタ飯屋さんが2部屋ずつ借りているんですよ。」
「そういうことか。で、この2つがそれぞれスナックなんだね。ところで松田君、築34年という割には小奇麗だね。」
「田中さん、よく上を見てくださいよ。小奇麗なのはお店の顔だけですよ。」
松田君に言われて、目を上に向ける。
外壁はモルタルでくすんだ薄茶色。実際は白っぽい外壁だったのだろうが、経年によって汚れが染みついた状態という表現が正しいだろう。
外壁はあちこちひび割れているし、黒くくすんだ染みが外壁だけでなく軒裏にも多数みられる。軒裏の染みは、強い雨が吹き込んできたり、屋根の防水に問題があり、軒に水が回っている可能性がある。
こういう事象が見られる場合、建物の構造躯体となる柱や梁、土台などの木材に、長い時間をかけて少しずつ水分が供給され、木材が腐朽しやすい状態になっている可能性がある。ひどい場合は腐食してしまい、建物の荷重をまともに支えられない危険な状態になる場合もあるのだ。
「空き部屋を見てもいいかな」
1階部分は店舗として利用しているため、2階部分の空き部屋を見せてもらう。
「汚いので、靴のまま上がっちゃってください」と松田君。
いくらなんでもと思ったが、ドアが開いた瞬間、目に飛び込んできた光景は、ガランとした空間に大量の埃、そして、壁と天井の隅にうごめくクモとその巣。明らかに数年間は人が入居していないような部屋だ。
恐る恐る玄関から一歩入る。
右手にはキッチン。キッチンというより、幼いころ見覚えのある昔の「台所」だ。艶がない鈍い銀色のステンレスでできていて、シンクと蛇口がひとつあるだけだ。シンクの上方には、瞬間湯沸かし器を設置するための立て板が設置されている。もちろん瞬間湯沸かし器は設置されていない。ガスレンジなんて当然ついていない。ガス栓があるだけだ。
玄関左手側の扉を開けるとトイレ。水洗式とは言え、昔ながらの和式だ。床には藍色、青、水色、白の小さなタイルが敷き詰めてある。そして奥には赤茶けた6畳の和室。
天井を見ると、あちこちに水染みが見られる。間違いない。雨漏りだ。
「松田君、これは雨漏りの跡だねえ。前の所有者さんから何か聞いてない?」
「何も聞いてないんです。とにかく、黙って買ってくれという感じだったので。。。」
この状態だと、かなりしっかりした調査をしないとクライアントに投資を勧めることはできないだろう。
もうひとつ気になるのは、2階の部屋に対する需要だ。
「この物件、駅から近いから1階店舗の需要はあると思うけど、2階はどうだろうね。風呂なし、給湯器なし、和式トイレっていうのはニーズあるのかなあ」
「いやあ、ちょっと調べてみないと判らないです。すみません」
「いいよいいよ。自分で調べるから。」
そう言いながら、僕は頭の中で計算してみる。
現在、契約している部屋は月額4万円の賃料だ。保守的に考えれば、空室5室のうち4室を月額3万円の賃料で埋めると考えるのが妥当だろう。
この場合、年間で144万円の収入となる。現状の収入が552万円だから大幅増収だ。
月額3万円の部屋ならば、各部屋とも簡単なクリーニング作業と畳の交換程度でも十分だろう。
いずれにせよ、実際の取引事例や同様の貸部屋の供給状況を調べる必要がある。それから地元業者に対して需要の有無を聞いておく必要もありそうだ。
そして、一番問題なのは建物のコンディションだ。
◇建物に欠陥や不具合はないか
◇仮に問題がある場合、どの程度の修繕コストをかければ問題が解消されるか
という点をしっかり調査する必要がありそうだ。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件、物件などには一切関係ありません。
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