2011年09月26日
ミニ小説〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継4)
ミニ小説
〜不動産コンサルタントは見た!(木造アパート投資実況中継4)
4.クライアント訪問(2)
僕は、物件資料を広げ、簡単に物件の概要を説明した。
小林さんは、ざっと資料を眺めながら、
「これはいい物件ですね。建物のコンディションと修繕費用次第ですが、5,000万円なら買ってもいいですよ。」
と言う。そして、さらに続けた。
「この物件が、旧耐震基準(※)であることについてはあまり気にしませんが、見える範囲で結構なので、建物図面通りに建てられているかという点は確認してほしいですね。」
(※)昭和56年6月1日より前の建築基準法で建てられた建物。現在の基準と比べると耐震性が劣る。
「分かりました。私も建物のコンディションを把握してから、投資可否を決めたほうがよいと思っていました。それで、ビルの売買で利用される『エンジニアリングレポート』の作成を設計事務所に依頼してみてはどうかと思っているんですが、どうでしょうか。」
「そこまで精緻なものは必要ないですよ。木造の建築物なら、ホームインスペクションで十分でしょう。」
ホームインスペクションという聞き慣れない言葉。なんだろうと思い、僕は小林さんに質問する。
「ホームインスペクションですか。。。簡易な建物調査か何かですか、それって。」
「エンジニアレポートのうちの劣化診断を抜き出したようなものですよ。眼で見える範囲を調査し、建物のコンディションを明らかにするものですよ。だから、建築基準法や消防法等に違反していない建物かどうかという詳細チェックやPML値といった地震の際に受ける損失額を予想したもの、あるいは土壌調査や地歴調査などは含まれませんね。」
「なるほど・・・」
「エンジニアリングレポートに比べたら、費用はたいしたことありませんしね。田倉事務所っていうところが有名ですよ。私も一度、利用したことがあります。」
と小林さんは言うと、僕に田倉事務所の名刺のコピーを手渡した。
「じゃあ、早速、田倉事務所に問い合わせてみます。ホームインスペクションの結果を見てから購入をオファーするかどうかを考えましょう。」
一方、僕が気になっていたのは、1階のテナントが居酒屋やスナックである点と、2階が「神田川」的な部屋であることだ。普通の投資家なら嫌がるはずだ。なぜ、小林さんは、開口一番にこの物件は言い物件だと言ったのだろう。
「ところで、1階テナントは呑み屋さん、しかも2階は今どき風呂もない部屋ですよ。勝算はあるんですか?」
「1階テナントは、地元の方が長期間借りていて延滞歴がないんですよね。ということは、地元の固定客がある程度存在すると想定できますし、月額7万円程度の賃料なら余程流行らない店でない限り、支払い能力を疑う必要はないと思うんですよ。まあ、実際に呑みに行けば経営状態や顧客層が判りますよ。」
なるほど。確かにそうだ、と感心していると、小林さんは続ける。
「仮に、商売がうまくいかずに退去されてしまっても、駅からこれだけ近ければ、直ぐに代わりのテナントは見つかるでしょうし、賃料相場も現在の水準程度だと思いますよ。少なくとも、1階テナントがきちんと賃料を支払ってくれていれば、まずまずの収益性ですし、土地の価値は路線価で見ても9000万円でしょう。建物は古いとはいえ、賃料が発生している以上、その価値がゼロということはないですから、少なくとも土地建物合わせて9000万円を超える価値があると考えていいですよね。ですから、5000万円で投資するというのは悪くないと思いますよ。」
「なるほどですね。でも、2階の風呂なしの部屋についてはどうお考えですか?」
「この地域は、昔から風呂なしの部屋でも需要はあるんですよ。今は昔に比べると少なくなったかもしれませんがね。ただ、3万円を切るくらいで募集すれば、入居したいという人は必ず現れますよ。だとすれば賃料総額が上がる可能性は十分にあると思うんですよ。」
僕は、先日、地元の不動産屋から聞いた話に加えて、賃貸取引事例をこのタイミングで小林さんに報告した。
「そうでしょ。ここはそういう地域なんですよ。思った通りですね。」
小林さんは、メガネの奥をきらりと光らせながら、続ける。
「それからね、この手の店舗の場合、エアコンや給湯器、厨房など、すべてテナントの持込み資産だから、オーナーが修繕したりする必要がないんですよ。壊れたら全てテナントの負担になります。オーナーが負担するのは、建物躯体と建物の外側にある給排水管とかガス管くらいなものだから、ほとんど手間がかかることはないんです。2階の部屋も、エアコンや風呂などがあるわけではないので、普通の賃貸住宅に比べ維持管理の手間がかからないんですよ。」
さすが、複数の収益物件に投資している方だけあって、いろいろ知っている。
本来は僕がこういった説明をしなければならないのだろうが、小林さんとはいつもこんな感じでやりとりが進む。
「で、いつにします?」
「えっ?何をいつにするんですか?」と僕。
「現場に呑みに行く日ですよ。」
小林さんは嬉しそうにそう言った。
小林さんは単に呑みたいだけと違うのか?と思いながら、
「来週か再来週なら、いつでも大丈夫ですよ。お付き合いできます。」と僕は答える。
「じゃ、再来週の月曜日にしましょうか。給料日のちょっと前ですからそんなにお客さんはいないかもしれませんがね。」
小林さんは、どこまでも投資家だ。客が一番少ないと思われる時期に店舗テナントを覗きにいくなんて。。。
「判りました。じゃ、再来週の月曜日、18時に現地で。」
そう言って、僕は小林さんの事務所を出た。
※この作品はフィクションです。実際の人物、団体、事件、物件などには一切関係ありません。
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